プロローグ

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 困った彼は、咄嗟に『青林檎というのは比喩です。 色合いが似ているからでしょう。 実際には、緑黄色野菜の中で青い野菜をふんだんに使った海鮮パスタになっております』 などと、のたまいやがったのだ。 突っ込みどころ満載の説明に、なんの疑問も持つことなく、お客さんの方も『では、それで』と、青林檎の南海パスタを頼んでしまった やがて、出された現物を見て大いに驚いた。 なにが比喩か、なにが色合いが似ている、だ。 実際には、薄切りにした青林檎や、南海辺りの島にでも生えていそうな果物を、特製のソースで絡めた創作パスタであり、まさに“青林檎と南海パスタ”であった。 ポカーンとした表情で目の前に出された料理を眺めるお客さんを見て、まずいと感じた僕は『大変申し訳ございませんでした。 味については僕と店長が保証します。 もしお気に召さないようでしたら、代金の方は結構です』とフォローを入れて、甘さと酸味が絶妙なバランスで整えられたプロの味に満足した様子のお客さんの笑顔を見て、なんとか事なきを得たのであった。 ちなみに、それを聞いた鮎川さんは激怒し、西江君は出勤の一時間前にはロッカールームで更新メニューと睨めっこするようになった。 というお話。
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