プロローグ

3/7
前へ
/85ページ
次へ
私はここに来るべきではなかったのだ。   でも来てしまった。   あの大きな懐かしい手で、腕で、唇を抱かれるために、そしてその愛に浸るため、現実を受け止めるため。    愛は無い海辺のビーチで、私は一人佇んで(たたずんで)いる。   この昼の時間帯、海辺は恋人達で溢れている。   潮の香りの風が髪をなびかせる。   懐かしい人に会いたい。 とはもう思うな、私の友人の(男だが、恋愛感情を抱いた事はない)正孝(まさたか)は言っていた。   過去に生きていたいと願う事は出来ない、その事実だけが私の心に小さな穴を開けている。   私はあまりにも彼に深く沈み、染められすぎてしまったのだ。   そして、もうキス―目眩(めまい)がするほど、甘く愛しい―はもうないと思えば、私は泣きたくなった。  
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加