1543人が本棚に入れています
本棚に追加
「うわぁぁ……」
自然と感嘆の声が漏れたクロアの視線の先。木漏れ日が神秘的に、その家を照らしていた。
家、と言うよりも、小屋と言った方が語弊が無いように思えるそれに、フラフラとクロアは引き寄せられていく。
「誰か…住んでるのかな?」
となると、初めて他人と接する事となるわけで、少々気が引き締まるのを感じた。
「ん~…、見えないなぁ」
背伸びをし、窓から中を覗いてみたものの、電気すらついていない小屋の内装を伺う事は出来なかった。
小屋の周りを一週してみたクロアだが、寝ているのか留守なのか、人の動きは感じれない。
ん~? と首を傾げ、小屋の扉の前に立った。
そして彼の右手は、無節操にも、扉のノブに向かっていた。
ある意味で“箱入り娘”ならぬ“箱入り息子”だったクロアが、他人付き合いのマナーを心得ている筈がなかった為である。
──それは、ドアノブを回そうと力を込めた時だった。
ピタ……
「小さいお客様ね、私の家に何か用かしら?」
ヒヤリとした何かが首に突き付けられて、クロアはブワっと冷や汗を流した。
無駄に頭が回る故に、咄嗟にそれが刃物だと理解してしまったのだ。
「あ…いや…、その…誰かいるのかなぁ…って」
ハハハと渇いた声を紡いだクロアだったが、震えるそれは隠せなかった。
この半年で魔物相手に神がかった立ち回りをしてきた彼だが、人間相手は初めてだったのだ。
加えて、人という“感情のある殺意”が隠った冷たい声を聞いたのも、初めてだった。
「貴方の目的は? 見たところ十もいっていない歳だろうけど、貴方みたいな子供がいるには違和感しかない場所よ? ここは」
つーーと、首から赤い液体が流れるのが分かった。
――この人、本気だ…
下手な事を言えば、即刻首を叩っ斬られるだろう。恐る恐るクロアは口を開いた。
「えと、いろいろあって…大体、半年前からこの森で自活してます。この家を見付けたのも、たまたまで……」
そう言いながら、足に魔力を込める。狙いは、《身体強化-闇-》。早くこの状況を脱したかった。
「そう…、事情があるようね。聞かせてもらえるかしら? ──あと、足に籠めている魔力を止めなさい」
何処までも冷たい女声は、冷たい刃に少し力を込めてきた。
赤い液体が、流れる。
確かな上下関係の前に、クロアは身の上話を恐る恐る紡いだ。
最初のコメントを投稿しよう!