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「これから、かぁ……」
正直なところ、何も考えていなかったクロアは顎に手をやり、眉間に皺をよせた。
こんな森のなかだ、今まで生き延びる事を優先的に考えていたのでこれといって目的がない。
しいて言うならば──
「とりあえず…、街に行きた──」
――ガシャァァンッ!!
街に行きたい。と、そう言い切る事は出来なかった。
唐突に打ち破られた窓ガラス。その一直線上に存在するものは、木製の床に突き刺さる鉄製の矢だ。
驚いたクロアが確認するやいなや霧散してしまったところを見るに、魔法で精製されたものだったらしい。
何者かによる襲撃か、悪質なイタズラか──十中八九、後者は無いだろうが──この事象に戸惑うクロアは目線でリースに訴える。
すると彼女は悲しい瞳で──いや、もはや呆れた顔で深い溜め息を吐いた。
「巻き込まれたくなかったら隠れてなさい。わかったわね?」
それだけ言うと、ゆっくりと家を出ていってしまった……。
外から聞こえる野太い声。
クロアはますます意味がわからない。
*
外。
家から出たリースは寒風に揺れる前髪を払うと、鬱陶しそうに眼前を睨み付けた。
その眼光に怯んだものはいない。
リースの家の前、約30mの間合いを開けて立っている男性達──約10名は、完全にリースを見下していた。
「……何の用かしら?」
「はっ、白々しい真似はよせよ嬢ちゃん。……わかってんだろう?」
真ん中に立ち、リースの問いに答えたゴツい男性が両刃の大剣を右手に出現させる。
それに倣ってか、残り9名も自身の魔武器を出現させた。剣、弓、銃、ダガー、杖。
どれも珍しいものでは無かったが、彼らは皆リースに殺気を放っているという、なかなかシュールな絵図が完成した。
両刃の大剣を片手で軽く振り回す男が、言う。
「SSSランク犯罪者──<扇鬼>。その首ったけ貰おうじゃないか」
右手に大剣を、左手に炎塊を顕現し、男はニヤリと笑った。
「……はぁ、毎回毎回暇な人が多いのね」
右手に大剣を、左手にダガーを顕現し、リースは溜め息を吐いた。
「え…っ? どうなって、るの……?」
ボロボロの服を寒風に靡かせ、汚れきった裸足のまま、クロアは目をパチクリさせた。
男10。女1。子供1。寒風に晒された森の中で、奇妙な構図が出来上がった。
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