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先に動いたのは男だった。
「ふんぬッ!」
――ガキィィンッ!
右手だけで降り下ろされた大剣を、リースは左手に持ったダガーで難無く受け止める。
身体強化をしているのは明白であるが、男よりも数段以上リースの方が魔力の込め方が上手いらしい。
「そこの餓鬼は嬢ちゃんの子、かッ!」
それに嫌悪する事もなく、男は近距離で左手に灯した炎塊をリースに放った。
「あの子が息子なら、私の旦那はとんだロリコンなのねッ!」
しかし1mも距離が無かった場所からの炎弾は、リースが無詠唱で顕現させた風の壁に霧散させられてしまう。
加え、オマケと言わんばかりに右手にある大剣を男に向かって切り上げた。
「──チィッ!」
まさかあの距離で炎弾を消された上にカウンターを食らうとは思わなかったのだろう。
屈強なその身に紅い一閃を残された男は素早く後退した。
「薄皮一枚しかくれないのね?」
「はッ、本当はそれすらくれてやるつもりはなかったんだがな」
皮肉に皮肉。そんな言い合いを小屋の玄関から見守っていたクロアに、リースは顔も向けずに話し掛けた。
「クロア、どっちに着くかはあなた自身で決めなさい。私の立場は知ったでしょう?」
私の立場。それはSSSランクの犯罪者という事なのだろう。
が、詳細を知らないクロアには、首の手当てをしてくれた(怪我をさせたのも彼女)リースがそんな悪人には見えなかった、むしろ──
「あんたの相手は10いる事を忘れんなよっ!」
シュンっと風切り声とともに、一人が弓を放った。
それに感覚で気付いたリースはダガーで叩き落とす。
気付けば、リースは10人に囲まれてしまっていた。
――バンッ
真後ろから聞こえた銃声。それには風の壁を顕現し対処した。
右から迫る大剣持ちには大剣で弾き返し、真上から落とされる雷の魔法には風で真空を作り回避。
そしてガラ空きになった真後ろからはダガーを投げられ──
(しま…っ! 間に合わないッ!)
「《バニッシュデバウアー》ッ!!」
リースの背後に顕れた闇が投げられたダガーを飲み込み消え去る。
役目を終えた闇が霧散すると、リースの背を護るように8歳の男が決意をしたのだった。
「──どっから見ても悪そうなオッサン達には着かないよっ!」
たかが8歳の餓鬼が戦力になっただけだが、リースはどこか心強く感じていた。
「これであなたも共犯ね」
笑えない冗談だとクロアは笑った。
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