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「うぅぅ…」
転移の発光により眩んでいた眼が元に戻ってきた。
「ここ…は?」
漸く視界が開け、その黒眼に映ったのは──外の世界。
しかし初めて見たそれは、御世辞にも美しいとは到底言える物では無かった。
街灯なんて人工物は当然無い。
唯一の月明かりによって照らされる周りも、全く整備されていない獣道。
時折吹く風に揺れる木々が、より一層不気味さを深めた。
8歳の子供が居るべき場所でないのは、一目瞭然だ。
──死の森。
進入禁止区域にもなっている、危険度SSSランクの森。
そんな場所に夜間にも関わらず放り出されたと言うのに、クロアの瞳は希望に満ち溢れていた。
「……さて、と。何処か良い場所は……──あったっ!」
クロアが見付けたのは、大木。
その枝は、大人が歩ける程に太かった。
目を付けた枝まで高さ約3m。そこまでに、足を掛ける場所など1つも無い。
「早速…っ」
目をキラキラさせ、枝を見詰める。覚えたて魔法を使える場面が早速出てきたのだ、テンションはマックスハイ。
「ん~…」
思案。効率良く飛べる魔法が《闇》にあったかと、クロアは記憶を掘り起こす。
「……よしっ、決まった」
一度、深呼吸をする。
邸に居たときは、初級、中級…はなんとか練習出来たが、上級からは確りと顕現した事が無かった。
どれも、被害を考えてミニチュア程度に魔力を抑えて練習していたのだ。
「よぉぉし」
木を見据える。
そしてもう一度、深呼吸。
サァァァァァ―――――
風が吹いたその音を皮切りに、クロアは詠唱【スペル】を紡いだ。
「[来たれ、顕れよ。
悪き憎き、哀れな手。
恨み怨み、憐れな手。
今、沸き上がれ。
《黄泉の招き手ーシェイドハンズー》]」
高らかに紡ぎ終えた──その瞬間に、事は起こった。
「……んっ」
ニョキニョキと、木の幹の影から黒い“手”が生えてきたのだ。その手は──いや、腕は関節を曲げ、階段の一段のように木の側面に手を付いた。
そして、その手によって出来た影からまたも腕がニョキリ、生えてくる。
そのサイクルを続けて1分弱。横幅1人分の急な階段が、幾重にも呼び出された腕により、目を付けた木の枝までの高さまで形成された。
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