─初めての、外

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  「よし…っ」 形成された影の腕を階段代わりに、一段一段慎重に登り進めていくクロア。 「ふぅー…」 目的の太い枝まで登りきった彼はそこに寝そべり、安堵の息を吐いた。 その枝まで登ってしまえば、下以外は全て葉っぱに囲まれていた。 これは風避けにもなり、魔物の目にも付きにくい。 母から渡されたのは魔導書だけでなく、こういった知識を蓄えるためのサバイバル用の本も渡されていたのだ。 取り敢えず寝床を確保したクロアは、有り余る魔力で闇の結界を展開した。これは、万が一木を住みかにする魔物に見付かった時の為である。 積み重なった葉の隙間から覗く月を、クロアは目を輝かせながら、しかしどこか曇らせながら眺めていた。 8歳の少年の心中は、あの虐待だらけの邸からの解放感と、これから先の不安が入り交じっていた。 数分後、 いくら天才的に頭の回る少年でも、体は8歳。 彼は疲労が貯まっていたのか、糸の切れたマリオネットの様に眠りに就いたのだった。 目尻に浮かぶ雫は、何を思って流れるのだろうか。 **** 「ん…っ」 眩しい、日が昇ったのか… なんて陽気な朝を、向かえる事など出来なかった。 ガン、ガンと結界を揺らす輩がいる。その衝撃でクロアは目が覚めた。 「やばい…よね?」 なまじ初めて見るのだ、魔物を。クロアは恐怖に包まれていた。 未だ諦めず固執に頭を叩き付けて結界を割ろうとする魔物。彼はヘルバードと言い、“死を運ぶ怪鳥”と、その名の通り危険凶悪な魔物である。 大きさは全長、クロア程。つまり5歳児程ならば、丸呑み出来る大きさの怪鳥にクロアは狙われたのだ。 自身と同格の大きさを持つ怪鳥に寝起きから襲われるなど、とことんツイてない。 が、ガンガンと結界を割ろうとする時間が、クロアに冷静さを取り戻させた。 ヘルバードにとって、サッさと結界を打破出来なかったのが敗因となるのだろう。 初めて捕食者となるクロアは、初体験にニヤリ、嬉しそうに口を歪ませた。 「[闇の元に、   深淵に咲く漆黒の薔薇よ、   咲き乱れろ 《ダークネスローズ》]」 ヘルバード。仮にも危険度Sを持つ、普通は怖れられる魔物である。 が、そんなプライド、数秒で粉々にされてしまった。 ギャァァァ…ァァ…ァ… その、命と共に。
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