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身を守るために念には念をと昨晩展開していた結界から咲き乱れたそれに、無慈悲にも貫かれたヘルバードは即死を余儀無くされた。
叩き付けようとした頭部は結界から咲き誇る漆黒の薔薇の花弁に包みこまれ、その真横から咲き乱れた十数の荊にヘルバードは射抜かれていた。
数打ちゃ当たる。
生物の的確な急所など詳しく知り得ないクロアらしい考えで、荊は見事に心の臓を捕らえていた。
「倒した…? 倒した、ははっ…、倒したーーーっ!」
歓声と共に魔法は霧散。
その場に崩れ落ちたヘルバードが、クロアの初勝利を物語っていた。
ぐぅぅぅ~……
さて、ナイスタイミングな腹の音により、この死体の逝き先が決定した。
鶏肉は鮮度が大事。
クロアはヘルバードに結界を張った。変な虫が死体に集るのは避けたい。
「焼き鳥って簡単かなぁ…?」
そうと決まればさぁ焚き火だ。
歓喜余って木から飛び降りたクロアだが、無意識の内に《身体強化ー闇ー》を発動するといった才能を発揮。
着地の衝撃を前方に飛ぶことで推進力に変換し、残像が残る速さで枯れ木を集める。
秋前なのが幸いしてか、枯れ木枯れ葉は案外直ぐに見付かった。
が、
「あ…、俺“火”出せないじゃん」
残念ながら《闇》属性の特性に“発火”は無い。
しかし機転を利かせ、直ぐに火が焚けないと分かれば別の手段を考案。
木と木を擦り、摩擦熱によって発火させるアレだ。
場所を変えてここは湖、さっそく準備に取り掛かった。
20分後。
こんな所でも彼は才能を発揮するのか、8歳の少年の目の前にはパチパチと燃え盛る焚き火が出来た。
その両端にY時の木を立て、羽を綺麗に剥ぎ取り、内蔵も出したヘルバードに木を喉から尻まで貫通させ、そこに掛ける。
先程の枯れ木採集の時に気が付いたのだが、寝床にした大木の近くにこの湖があったのだ。
しかも侵入禁止区域に設定されてあるだけあって、砂浜は白く、湖も底を映すほどの透明感。
更には岩塩も転がっているという奇跡っぷり。その昔は海と繋がっていたのだろうか、しかし今は淡水である。
“住めば都”とはこの事かと、なかなか小難しい事を考えながら焼き加減を調整しているクロアだった。
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