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「──ここは……」
──……ここ―ど―?
見回すと一面が白い1人部屋。後に初めてクロアが知るのだが、病室だ。
大きな窓があり、そこからは静かな朝、ビルディングが今日の仕事のために休息をとっているかのよう。
「俺、生きてる……」
──死んだ――しら? こ―が天――の?
「──? 何か、聞こえた…?」
そこでふと、自分以外の声が聴こえる事に気付いたクロアは辺りを探るが、誰もいない。
見知らぬ場所で目が覚め、奇妙な体験。より警戒心が増していく。
まずは──
「ここがどこか、把握しないと」
ベッドから降りたクロアは廊下に出ようとするが、腕についた管がピンと張り動きを制限する。点滴だ。
当然、病院はおろか点滴すら始めて見るクロアは腕に刺されたそれに危険を感じ直ぐ様引き抜く。
警戒心を更に強めて、まずは部屋を出て……
──主導権は、無いみたいね。
「っ!!」
今度は、しっかりと聞こえた。
そしてその声は一番聞き慣れたもので、
──誰かに憑依した? 私、どうなってるのよ……
そしてその声は一番聞きたかったもので、
──鏡でも見てくれないかしら……でもこの声……まさかね
そしてその声は、直接脳に語りかけられているようで──
「──リースっ!」
──っ! な、なに、私のこと、呼んだ…?
術式は、成功していたのだ。
肉体は魔力となりクロアの中に保存され、魂はまるで居候するかのように彼の中に確かに存在していた。
最期に言った、生きたい。その想いがリースの魂を消滅させずにしっかりと存在させたのだろう。
戸惑うリースに喜びから浮かれた声色で全てを語るクロア。
状況が飲めてきたのか、リースも落ち着いてきたようだ。
「リース。もうリースは追われる事もないよ」
彼女は生まれ変わったと言っていい。
森で死に、そしてクロアの中で生き返ったのだ。そこから第二の人生が始まる。
「もう<扇鬼>なんて呼ばせない。これからは、俺と一緒に自由に生きよう」
SSSランク犯罪者<扇鬼>は死んだのだ。
ここにいるのはリース・アルテミアという、甘え方の知らない、ひた向きで、強くありたいと願う──そんな辛い境遇を乗り越えた、1人の女性である。
その言葉をプロポーズだと受け取ったリースとクロアの距離が近付いていくのはまた、別の話――。
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