1543人が本棚に入れています
本棚に追加
──そんな生活を続けて、約半年が過ぎた。
魔物の肉は固く、決して美味ではなかったが、食べれない事はなかった。
極たまにだが、食用とされている魔物を狩れた時は跳んで喜んだものであった。
「寒ぃぃ…」
で、只今の季節は真冬。
冬初めのうちは、食材となる魔物を多目に狩り、蓄えていたのだが…、
ぐぅぅぅぅぅ~……
「腹へったぁ…」
雪は降らないものの、気温は低く、時には0度を下回った日もあった。
陽が上り、乾いた空気の中フラフラと歩くクロア。
ある程度の魔物は冬眠に入り、襲われる心配は殆ど無かった。反面、やはり食料に困る。
ビュォォォォォォ――
「うはぁぁ…」
そして空腹に勝るのが、この乾いた寒風だ。捨てられた時の服は半年の月日によりボロボロ、加え、この森には風を防ぐ物が無いのだ。
「今日はあっち行こうかな…」
思ったよりもこの森は広く、捨てられた日から1週間毎に行動範囲を広げ、拠点を変えてきたのにも関わらず、未だに森の終わりが見えなかった。
「──《身体強化-闇-》」
魔力を足に集め、纏い、強化する。
この半年でクロアは、様々な魔法を使い、ほぼ完璧に習得した。
もともと邸で練習していた甲斐あってか、すんなりとはいかずとも扱えるようになった。
最上級魔法を──いや、禁忌魔法、古代魔法の発動段階までを習得したのだから、彼は天才いや、鬼才と呼ばれる天童であった。
ギギイィィィィィィィィッ!
爆走するクロアの眼前に飛び込んできたのは一匹の虫。いや、蟲。
ウールモースと呼ばれる巨大な蛾で、その羽はまるで毛布の様にフワフワとしている。が、勿論りんぷんである。
「──ちっ、消え去れっ《バニッシュデバウアー》ァァッ!!」
ギィィィィィッ!?
身を捩り必死に足掻く蛾をよそに、翳されたクロアの右手から顕れた“闇”が取り付く。
「虫なんか食えないじゃんかっ!」
腹が満たされない怒りをウールモースにぶつけ、その真下を通過。
その時にはもう、闇の余韻だけを残し、魔物は消え去っていた。
「───んっ?」
何処か良い拠点はないかと爆走していたクロアだが、不意に開けた場所に出た。
「んんんんっ?」
目を擦り、夢じゃないかと何度も頬を叩く。
「い、家…?」
クロアはこの森に来て──いや、産まれて初めて“他人の家”を見付けたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!