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「…うん、美味い」
本村くんはコーヒーを淹れるのが上手い。
「先生、美味いじゃありません。美味しいです。そんな言葉遣いだからいつまで経っても結婚出来ないんですよ」
でも、小五月蝿い。
グチグチ言われても、私は大抵スルーしてやるけど、本当は少しだけ傷付いてる時もあるのだ。
…ああ、こういう所も本村くんが彼女と長続きしない所だと思う。
「本村くん、イイOLになれるよー、君」
「なりませんし、なれません。嬉しくないです」
「じゃあ、イイ奥さんになれる」
「先生、冗談はいい加減にして下さい」
でも、プリプリと怒ってる本村くんは二十代に見えなくて可愛いのである。
こういう時の本村くんが私は本当に大好きだ。
勿論、恋愛的な意味では無く、人間的な意味で、だ。
「それで」
本村くんは私のデスク横に立ち、コーヒーを少し飲みながら、パソコンの画面を見つめた。
「原稿、何処まで出来ました?」
そう、今日の彼の来訪理由は此処にある。
まだ〆切まで当分はあるのだが、本村くんはえらく私の執筆状況が気になるらしい。
私は〆切を破ったことなんか無いのに。
「もうちょいでネタ明かしって感じかな」
「いつも以上にペースが速いじゃないですか」
「まぁね。ちょっと読んでく?」
「え……あ、はい」
本村くんはホラー作家である私の担当編集のくせに、ホラーの類いが苦手だ。
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