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それからもう随分と月日が経ち、私は大人になった。
地元の大学を卒業し、特にやりたいこともないまま、やはり地元の小さな会社に就職した。零細企業だが職場の雰囲気は悪くない。社長はやり手ではないが優しく温厚な人で、私はとても良くしてもらっている。勤務内容にも給料にも不満はない。
しかし一方で、変化の乏しい環境に辟易している自分がいるのも事実だ。
決まった時間に起きて支度を済ませ、電車に揺られて会社へ向かう。デスクに座って代わり映えのしない液晶画面を眺め、時間が来ればまた電車に乗り、狭いアパートへ帰っていく。
特別なことなど何もない、判で捺した毎日。一日が過ぎる度に、大事な何かが磨耗していくような気分だった。
魚になりたかった夢見がちな少女はどこかへ消えてしまって、無気力で冷めた目をした人間が、ひとりぽつんと取り残されている。
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