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働きはじめて一年が過ぎた頃、最寄りの駅からアパートまでの道に熱帯魚ショップができた。わざとらしい色で照らされた水槽の中で魚たちがゆらりと揺れている。昔の名残か、私の足は自然と水槽の方へ向いて、店へと引き寄せられていく。蛍光色に染まる魚の眼が、私を呼んでいる気がしたのだ。
店内は薄暗く、水槽の中だけが青白く光っている。BGMはかかっておらず、モーターの回るような低音が密かに聞こえる。特有の水のにおいが、私を懐かしくさせた。
アルミの棚に並べられた沢山の水槽の中を、様々な種類の魚たちが泳いでいる。小さくて綺麗な色のものから、毒々しい色をしたもの、どっしりと構えた大きなものまで、本当にあらゆる魚たちが通路の両脇に並べられている。
私はその中の、小さくて赤い模様のひらひらした魚が気に入って、その群れにじっと見入った。
鮮やかで薄い尾が水を掻き分ける。群れをなして泳ぐ様がとても綺麗だ。色の塊が一斉に右へ左へと移動していく。
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