スイソウ

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 魚たちには名前は付けない。名前を付けるというのは所有することだからだ。彼らを名前で縛る必要なんてない。ましてや所有するつもりは毛頭なかった。そうやってラベリングするのはもう飽き飽きだった。  これ以上、無意味な言葉をつけて一体何になるのだろう。彼らが「私の」魚たちであると明確にする意味は一体何だというのだろう。  彼らはただの魚でいてくれれば良かった。私の幼い憧れを、彼らは体現してくれたのだ。水中を滑らかに泳ぐ姿はあの頃のまま自由の象徴だった。具現化された自由は、くたびれた人間をきちんと私という形に戻してくれる。そうして私は、私に戻ってくる。  
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