episode 1. 予感

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季節は梅雨真っ最中。 何でこの時期に引っ越しなんて、と言うツッコミはとりあえず無しの方向でお願いしたい。 大きな荷物はすべて業者によって引っ越し先に送られており、入居したてのマンションへ向かうあたしの手には鞄一つだけ。 その身とは裏腹に、足取りは正直重い。 どんよりとした曇り空が、そんなあたしの心境に拍車をかけていた。 「……ここ、ね」 それでも何とかここまで運んだ足。 目の前に建つのは、今日からあたしが住む六階建てのマンション。 今さらどうにもならない。 ここで頑張るしかない。 自分自身にそう言い聞かせて、あたしはその敷居を跨いだ。 × × × × 「あ、あのっ! 今日ここの507に引っ越してきた藤枝です。よろしくお願いします」 「あー、ども」 これで五回目。 思わずため息が出た。
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