黄昏

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 少女は長老の樹に全身を預けるようにしてもたれ掛かっていた。耳を幹に押し付け、まるでその樹の発する声を聞こうとするように。しかし、その少女は何の音も聞く事はできない。樹が音を発さないからではない。少女の耳には遠くの生徒たちが発する声も、葉擦れの音も届かないのだ。その姿を見つけた少年は初め、少女の厳かな雰囲気に目を奪われた。そして、次に少女が寝ているのではないかと思った。しかし、すぐに異常に気がついた。少女は身動ぎ一つしないのだ。少年は少女の元に近づく。それは聖域を侵す事にも似た苦痛を彼に与えた。辺りは既に陽が沈みかけた、黄昏時、誰ぞ彼は、の語源通り、少年にはその少女の様子がはっきりとは見えていなかった。しかし、一歩、また一歩と足を進める度に、少しずつはっきりとしてくる。少女の元までたどり着いた少年はその少女が少年のクラスメイトであることと、少女の魂が既にこの世には無い事を理解した。
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