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「…なんでだと思う?」
なのに、予想に反して返ってきたのはそんな言葉だった。
それも、今まで見たことがないような真剣な顔で。
俺は、詩音のそんな表情に気圧されて、いや、とかそんな曖昧な言葉を返した気がする。その辺りはよく覚えていない。
ただ、俺のその反応にひどく落胆したような詩音の表情に、言い様の無い罪悪感を感じたのを覚えている。
「どうしたの?」
詩音の心配そうな声で、はっと我に帰る。
なんでもないよと答えてチラと見た詩音の顔には、あの時と同じような落胆が見え隠れしていた。
胸に、ずきりとした痛みが走る。
──それで、気付いた。
多分、俺は詩音のそんな顔など見たくはないのだ。
詩音にはそんな表情は似合わない。
夜空に光る星々に「幻想的」という言葉が似合うなら、詩音には「笑顔」がよく似合う。
だから、とてもじゃないが曖昧な返事なんてできなかった。
「ああ、聞きたい」と。
詩音の目を見て、はっきりと、そう言った。
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