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奥から出てきたのはお坊さんのような格好をした祠の管理人。まあ多分お坊さん。
正幸とは知り合いのようだ。
「知り合いなの?」
この河童と…。
「うん。雨が降ったら、雨宿りさせてもらってる」
近くでみると意外と若い坊主は、40歳前後だろうか。奥へと案内してくれた。禿げた頭のてっぺんは皿型にうっすら毛で縁取られている。まさに河童。
私達は縁側に面した部屋に通された。襖や掛け軸がある所をみると、この辺は生活スペースのようだ。
正幸はといえば、坊主より先に部屋に入り、外に面した襖を開けて縁側に横になった。
「ここは彼のお気に入りの場所なんですよ」
枯れた植え込みの手前にある花壇には紫陽花が蕾をつけている。
「私は向こうにいますので。何かあったら声をかけてくださいね」
正幸の「はいはーい」という返事を聞く前に、坊主は行ってしまった。
私は正幸の横に腰を下ろした。
「もうすぐ昼休みだね。腹減ったー」
「そうね。正幸はここによく来るの」
「うん。晴れてるときはさっきの木の枝、雨のときはここ」
「へー」
でも、わかるんだよな。さっきの木の上も、この縁側も、落ち着く。
雨が景色を引き立たせる。雨音が涙を誘うせいか。私は泣いていた。
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