日常の中で

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雨が降り続く音が、気持ちいい。屋根から水が流れ落ち、紫陽花の葉が踊る。そんな中、彼女はずっと泣いている。 それは桜咲く頃、初めてオレがここに来た時のようだった。 数ヶ月前、お母さんが死んだ。この辺りで3本の指にギリギリ入る林ノ宮高校に入れた事を1番に喜んでいたお母さんが……。交通事故だった。 友達の家に泊まって、遊んでいたら携帯が鳴った。タカ姉からだった。舌の回らない声で、「母さんが事故に」と。 病院に駆け付けたとき、お母さんの顔にはもう白い布がかかっていた。体がまだ温かかったから、死んでるとは思えなかった。 タカ姉とお父さんはお母さんの両脇に座り込んで、すがりつくように声をあげて泣いていた。 オレは泣けなかった。悲しくないはずがないのに、目が潤む事さえなかった。 通夜でも葬式でも全く泣かないのに、誰もオレを責めなかった。むしろ、強いねと言われた。 けれど、自分で自分が許せなかった。自分だけ取り残された気分だった。 最期に見たお母さんの表情も、交わした言葉も何一つ思い出せない。写真を見ないと笑顔を思い出せない時さえあった。 そんな時に、いつもの木でぼんやりしていたら雨が降って来た。ふと森の奥が自分を呼んでる気がして、進んでいくと祠があった。 手前にあるお堂の軒先で雨宿りしていたら、和尚さんと出会った。 和尚に奥の住まいの縁側へ案内された途端、涙が溢れた。声を出して、叫び、泣いた。それが誰のための涙だったのか、今でもよくわからない。
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