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畑は交差点の反対側だ。
もう、付き合ってられるか…!ここまで来ている時点で大分今更だが、あんまりな仕打ちに思わず剥ぎ取った薄い紙が汗ばんだ手の中でクシャリと皺を寄せた。
「…ん?」
ふと、汗で滲んだ紙にインクが浮かんだ。 なんだ、裏面にもなにか…。
「ああクソ行けばいいんだろっ!」
先週下ろしたばかりで柔らかな生地のジャケットを玄関先に叩きつけ、糊の効いた(正確には家から一キロ程歩くまでは効いていた)シャツの袖をおざなりに捲る。上品に鞣した革が自慢のブランド鞄からガラスのボトルをひっ掴むと半分自棄になりながらそれもジャケットの横に放った。
結局いつも敵わないのだ。だが俺は程々戦いには向いていないのだから仕方がないさ。
軒先から一歩踏み出せば再び紫外線が容赦なく刺さって汗が吹き出した。
ああ本当に信じられない。実に美しくない。
3分前に挨拶した美人が塀の上から憐れむように視線を寄越した。
ははは、ごもっとも。こんな手紙一つで何処までだって行ってしまうんだから本当に仕様もない。
『はよきてや。トマトにカヴァ、取って置きの生ハムは用意したんやけど、極上のワインと甘ったるい言葉が足りひんのよ』
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