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あいつは仕様が無いやつだ。などと俺が愚痴をこぼせば、大概周りはうんうんそうだねと返してくれる。つまり、誰もがそう認識するほどまでに彼の懐古趣味は明確なのだ。
昔は、のフレーズから始まる主に俺に関しての思い出話はうんざりする程繰り返された。彼は過去に縛られているのだよ、と、柔らかな金髪を揺らしてフランスが言ったのはいつだったか。
まあ、そうだ。まわりからはそう見えるかもしれない。まわりも、彼自身さえも、思い出に縛られたままの彼とそれに付き合わされているの俺、というのが俺たちの縮図だと思っているのだろう。
でも実際のところはどうだろう、昔に浸ったまま溺れ続けているのは俺の方なのかもしれない。と実のところ思っているんだよ。
「ああ昔は本当に可愛かったのに、」
「またかいイギリス。いい加減にしてほしいんだぞ」
彼のその面倒な発作は酒が入るとそれはもう飛躍的に発症の可能性を増す。特に俺と一緒にいてみろ。ほとんど100%だ。
「なんでそんなことを言うんだ…あんなに俺を慕ってたっていうのに」
悲しげに眉根を寄せて、酒で赤くなった目をより潤ませる。元が白いからべっとりと紅を塗ったかのようになった頬は熱をもって彼に懐かしい懐かしい夢を見せているのだろう。
「あの嵐が酷かった夜には怖がって俺に抱きついてきたのに」
「いったい何時のことだい。そんなの覚えてないんだぞ」
嘘だよ。覚えてる。
「寒い日に仕事が終わらない俺に、遅くまで起きてたお前が毛布を持ってきてくれたこともあったよなあ」
「知らないんだぞ」
ああそんな事もあったさ。指先が削がれてしまったかのようになる、とても寒い日だった。
「なのに…アメリカ、どうしてこんなメタボKYに…」
「ううう、うるさいんだぞ!!まったく、ホント君には付き合ってられないよ。悪いけど明日の会議の確認は済んでるんだし帰らせてもらうよ」
「え、ちょ、待てよ、待ってっておい」
よろよろ立ち上がる彼を無視するとジャケットを引っつかんで部屋を出る。ばかあー、という余韻が上がった気もするが、今更気にするほどでもない。
玄関を潜ると、灰色の空に月がうっすら滲んでいた。
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