10人が本棚に入れています
本棚に追加
どうしようもないものを切望している。俺が望んで立ったはずの場所で違う景色にとまどってしまう。もう戻れないのに、常に変わっていくのに脳裏妬きついたものと少しでも違うとニセモノに思えてしまう。
彼は過去に執着しているかもしれないが囚われてなどいない、ちゃんと今の俺を見ている。だから「昔は」などと口にできるんだよ。
彼は変わっていく俺しかしらないかもしれないけれど、俺はいつも同じ彼しかしらなかった。
だから今は違和感だらけの彼の横で失望に苛まれながら途方に暮れるのだ。
明日はまた彼に会える。少し早く来た彼は俺の顔を見るなりため息をついて小言を言いながら素直じゃない言葉と共に忘れ物を手渡して最後にこう言うのだ、お前ももう立派な国なんだから、少しはしっかりしろよ、と。そこまで分かっていながらもまだ、次に会う時はいつかの彼がそのままで甘やかしてくれてるのではと期待してしまうから、彼は目の前にいるのに迷い子のような気分のままで向き合わなくてはならない。本当にどうしようもない馬鹿だよ俺は。
いつの間に月は隠れて街頭の明るさがより一層白く見えた。踏み出す足に湿気が絡んで重く感じる。
たぶんもうすぐ雨が降る。
なのに俺は彼の家から遠ざかり、こんなに暗いのに俺の手を引いてくれるはずの人はいないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!