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「ったく、今年は暖冬だって言ったのは誰だよ。」
師走の風が私の老体を刻むように吹き抜ける。
こんな人通りの少ない通りに「易」の看板を立てていても客など来るわけがない。
ほんとうに占いの才能があるのであれば、儲かる場所ぐらいわかるだろうにと言われそうだ。
一人で苦笑していると、いつの間にか目の前に赤いランドセルを背負った少女が立っていた。
日も落ちてだいぶ経つ。
「お嬢ちゃん、早く帰らないとママが心配するよ。」
少女は黙って手を差し出す。
「お金はサービスするから、占いが終わったらすぐ帰るんだよ?」
黙って頷く少女。
しばらく手相を読む。
「大丈夫。お嬢ちゃんの願いは絶対叶うから。」
少女はお辞儀をすると、軽い足取りで去っていった。
私はその後ろ姿を見送りながら、胸に込み上げるものを感じていた。
少女の手には生命線が無かったのだ…。
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