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「…でも…俺には、楓以外にも、たくさん、そういう相手がいたから…抱きしめる資格なんて、ないと思った。」
そこまで言って、先輩が僕の目をまっすぐに捉えた。
「だから今日は…他の人、全部切ってきたんだけど…そしたら意外と時間かかっちゃって。…よかった。まだ楓がいて。」
「……え…と…」
どうして先輩がそこまでするのかがわからない。
先輩の言葉をひとつひとつかみ砕いて飲み込もうとするが、頭がぐちゃぐちゃで整理できなかった。
「だから…」
先輩がふわりと僕を抱きしめる。
「楓が好き。一番とかそんなんじゃなくて……楓だけ、だよ。楓だけが好き。楓だけ抱きしめたい。楓だけ・・・キスしたい。」
抱きしめられた先輩の心臓の音が、いつもより早い。
夢みたいな言葉にぼんやりしていると、先輩の腕に力が込められ、より先輩と密着する。
かと思えばそっと離され、先輩の顔が近付いてくるのに合わせて僕は自然と目を閉じた。
先輩の少し乾いた唇が僕の唇に触れて、すぐに離れていく。
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