学校へ行かないか?

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神崎瞬は気が進まない中、のろのろとした動作で重たい扉を引き開ける。 その中は狭い個室だった。 床一面には赤い豪華な絨毯が敷かれているが、扉を開けたそのすぐ先に木で造られた机と椅子が置いてあり、そこに一人の中年男が座っていた。 男は神崎に気付くと、書類から顔を上げて柔和な笑みを浮かべる。 「なんの用ですか。コモンさん」 コモン=ネット。神崎が所属する軍隊――アンブランテの最高責任者だ。 年は三十代前半。短い黒髪のオールバッグで、物腰柔らかい男である。 コモンは細い目を更に細めて笑みを作りながら、一言。 「学校に行け」 「は?」 「だから、学校に行けよ」 「理由が分かりませんが」 「理由は後で炎帝から説明させるから、今はとにかく出発の準備をしてくれ。三日後に出発だからな」 「いや、でも……」 少年は言葉の意味が分からず、なんとか理由を説明してもらおうと食い下がったのだが。 「命令。早く準備しろ、ノロマ」 の一言で、強制的に部屋から追い出されてしまった。 あの人は一体なにがしたいのだろうか。そんな事を考えながらさっき歩いたばっかの廊下を引き返す少年。 「まっ、大変な任務じゃなくて良かった……かな?」 何事もポジティブに考えればいいのだ、という現実逃避的な思考に到達した。
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