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「へい、らっしゃーい! って、何だ。楓か」 「やぁやぁ、やっとるねぇ、ヒカル」  赤のランドセルを背負ったポニーテールの子が暖簾を掻き分けて店内に入ってきた。近所の文房具店の三女の楓だ。もうすっかり懐かれてしまった。 「小四が高三を呼び捨てにすんなよ。『さん』をつけろ『さん』を」 「へーい」 「ったく……腹減っただろ? 今ラーメン作ってやっから、そこら辺に座ってろ」 「ねえねえ! 聞いてよ、ヒカル。私、絵の発表会で一位に選ばれたんだよ!」 「ほら!」と自信たっぷりの笑顔でこちらに画用紙を広げた。リボンのついたシールが左上で存在感を放っている。母親を描いたものらしい。 「へえ、うまいじゃんか」 「うん! でも……わかってるんだ。みんな、気を使ったんだよ」  うつむき加減で声のトーンを落とす楓に「なぁ、楓。見てろよ」と声をかけた。 「いくぞ! 秘儀『燕返し』」  湯切りのため勢いよく振り回すと、麺が飛び出してヒカルの顔面を襲った。 「うあっちゃあああああ!」 「何してんだ、ヒカル! 慣れねェことすんじゃねェ! このバカタレ!」  ねじり鉢巻きの店長が一喝した。「す……すんません! 店長」  楓は笑っていた。その振動が手に持つ画用紙にも伝わり、画用紙も揺れた。笑顔で揺れる母親の絵は、まるで楓と一緒になって笑っているようにも見えた。  ――みんなはきっと気を使って選んだんじゃないと思うぞ、楓。その絵はすごく魅力的だし、すごく上手だ。きっと、天国でお前のことを自慢してるんじゃないかな。 「ヒカル、下手糞ー! そんなんじゃ、私のお婿さん候補ランキングの三位になっちゃうよ?」 「……今まで俺が結構上位にいたのが驚きだな」  ヒカルは新たに麺をゆで始めた。
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