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  ハスキーな女性の歌声が、耳障りにならない程度の音量で流れている。 若い女性に人気のある歌手の曲だったが、耳を傾けて聴いている人は誰もいない。 休日の昼間ということもあって、普段は客の少ない喫茶店も、それなりに混雑していた。 窓際の奥の席には人待ち顔の女が一人で座っている。 彼女、須藤麻子は携帯を取り出し、待ち合わせ相手の友人に宛ててメールを打っていた。 ディスプレイに表示された時刻は待ち合わせの時間をとうに過ぎている。 麻子は店員を呼び止め、幾度目かのアイスコーヒーのおかわりを頼んだ。 アイスコーヒーだけで居座るのにも限界があるが、待ち合わせ相手の友人と一向に連絡が着かないのだ。 手鏡を取り出し、さっと髪を整え、リップグロスを塗り直す。 一息ついて窓ガラスの外に視線を向けた。 忙しなく通り過ぎる人混みの中に誰かを捜すように、窓ガラスの向こう側へ視線を遣る。 すっかり習慣となっている麻子の癖だ。  
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