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様々な色が慌ただしく移り変わる。
流れていく群衆を惰性的に瞳に映していた麻子は、ふと一人の男に目を留めた。
鮮やかな色の中で、その男の周りだけ色が抜けたようだ。
褪せた写真から抜け出てきたような、どこかちぐはぐな違和感。
後ろを向いている男の顔は、麻子から見えない。
麻子は僅かに身を乗り出し、目を凝らす。男が何かに気がついたように横を向いた。
瞬間、掌の中の携帯が震え、麻子は思わず手元を見た。
先程メールを送った友人からの返信がきたのだ。
携帯を開きながらちらりと窓の向こうに視線を向けるが、もう既に男の姿は見えない。
麻子はその後も窓の外を見つめていたが、暫くすると諦めたように携帯へ視線を戻し、友人へのメールを打ち始めた。
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