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佐津樹が指し示した席は、入口から一番遠い、窓際の一番後ろの席であった。
座ってみて、歴は窓から見える景色を眺める。茶色のグラウンドが、芝生のただ中に穴を開けている。そして、その向こう側には海が、空と混じりあうまで広がっている。
海は綺麗なさざ波を立てていたが、歴にとって、その青は胸をざわつかせるような不安感をそそるだけだった。
「歴君……」
そう隣にいる佐津樹が声をかけた時、教室の雰囲気が凍りついた。そしてすぐさま皆席につく。
教室の入口に立っている、底なしに黒い髪をきつく結い、赤縁のメガネに手をやる女性。間違いなく、歴が朝に会った女性である。
葬式もさながらに静まりかえった中を、ヒールの音を響かせて歩く様子は、独裁者という言葉が似合う。歴はそう思ってしまった。
それを察するように、女性の目が歴を鋭く射る。とたんに歴は背筋硬直し、なぜか制服のネクタイがちゃんとまっすぐかを確認してしまう。
「ふむ。今日の授業を始めるが……その前に、新入生を紹介する」
そう女性が言うなり、生徒がこぞって椅子の背もたれに手をかけて、体を捻って歴の方を見た。何か珍しいものを見るかのように。
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