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「歴です。よろしくお願いします」
歴がそう言うと、生徒の何人かはおずおずと軽く頭を下げる。前にいる女性は、咳払いをして生徒に前を向かせた。
「歴……か。よろしく頼む。私はこのクラスの担任である神崎だ。よろしく」
神崎の威厳だか威圧だかに圧倒され、歴は深々と頭を下げてしまう。周りからは、ちょっとした笑い声が流れた。
「では授業を開始する。今日はお前達が生まれる、家族という事についてだ」
授業といっても、教科書やノートを出している生徒はいない。神崎のただ刺が混じった無機質な声を、ただひたすら聞いているだけである。
だが、歴の頭の中には、神崎の授業の内容がするする入っていく。話しているのは、家族の定義とその役割。
家族。聞いた事のあるような、暖かい響き。歴にとってそれは、大切な何かのように思えた。
ふと横にいる佐津樹の顔を眺めてみる。眠たそうな、しかししっかりと前を見つめた穏やかな顔。
歴はそれに吸い込まれそうな魅力と、どこか悲しそうな切なさを感じていた。
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