25人が本棚に入れています
本棚に追加
授業が終わるなり、神崎先生と入れ替わりで教室に現れたのは、他ならぬ春明であった。彼はすぐさま、歴の席へとはや歩きで近づく。
「やあ新入り君、クラスはどうだい?」
わざと仰々しく胸を張りながら言う春明に、歴は笑いそうになりながら
「うん。佐津樹さんのお陰で」
そう答えた。すると隣にいる佐津樹をちょっと見ると、納得したように溜息をつく。
「春明、歴君を迎えに行ってくれてありがとうね」
「僕はそよに、今日から怪獣がクラスに来るとか聞いたから、興味本意で会いにいっただけさ。また騙されたけどな」
春明が口をとがらせて、困ったようにクラスの前の方を見ると、佐津樹は愉快そうにクスクス笑う。
「からかわれるのは、今に始まったわけじゃないでしょ」
「まあね」
笑いながら受け流すと、春明は途端に声のトーンを落として二人に囁きかける。
「君、名前を自分でつけたでしょ。何でかな、記憶はないの?」
記憶。あると言えばあるし、ないと言えばない。歴が今日学校に来る前の記憶で覚えているのは、あの不思議な色の空に囲まれた、一人ぼっちの自分だけだ。
「記憶を与えられなかった……のかな?」
佐津樹が頭に人差し指を当てながら、そう小声で言う。その言葉が歴のどこかに引っかかった。
最初のコメントを投稿しよう!