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僕には何もない。何も、ない。
どこまでも淀んだ世界。黒や緑や紫が混じりあう空が、どこまでも続いている。
その世界に浮かんでいる少年が一人、その奇妙な空に虚ろな瞳を投げ掛けていた。
艶がある黒髪は、肩にかからない程度に伸びていて、それが好き勝手な方向に跳ねている。
まだ幼さが残る大きくて丸い瞳には、生気が宿っておらず、写るのはただただ暗い闇の様子だけであった。
ここは何だろうと、少年は考えた。自分はなぜここにいるのか、どうやってここに来たのか。そして、自分は何なのか。
考えようとすればするほど、少年の頭の中は混乱し、どうしてもそれらを思い出す事はできない。
思い出せない。そう思うと、少年は考えるのを止めて、ただ辺りを見回してみた。
自分の上だろうが下だろうが一面、奇妙な空に包まれている。そして、自分のような存在は、他にいるようには見えない。
たった一人きり。どういう状況にあるのかはまだわからないが、それはとても悲しい事であるのだと、少年はなんとなく理解していた。
蠢く空を見ていると気が滅入りそうだと、少年は瞼を閉じる。
全てが黒い、何もない空間が広がる。少年は、ただ何も考えず、そのまま意識を閉じて眠りについた。
最後に、かすかではあるが、声が聞こえたような気がした。
「時計の中で、あなたはどう進む事を選ぶのだろうか……」
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