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春明と名乗った男の子は、木枯らしのように去っていった。部屋の中に呆然と佇む少年を残しながら。
隣の部屋から、さっきと似たような音がする。どうやら隣にも同じように話しかけているようだ。
自分以外にも人がいる。それが分かっただけでも、少年にとってはありがたかった。少年としても、夢か現実かはわからないが、あの何もない空間のような場所には行きたくない。
ベッドに腰かけて、物思いにふけっていると、自分以外の事にも注意が向くようになっていた。
本棚にある本にしろ、洗面台にしろ、多少なり汚れている。つまり、誰かが使用した事がある。
しかし、それは自分以外の誰かだ。自分は、覚えている限りでは、ついさっきここに『いた』からだ。それは誰だろう。
そんな少年の思考を遮るように、ドアをノックする音がする。
「どうぞ」
ノックするあたり、さっきの春明とかいう人とは違うらしい。そう思いつつ少年は促した。
入ってきたのは、黒いスーツに膝丈のスカートの組み合わせをした、目がつり上がったキツめの顔の女であった。
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