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「気分は?」
女性はメガネに軽く手を当ててこちらを見るなり、そう尋ねた。こちらが誰だか、わかりきったような態度である。
「まあ、普通です……強いて言うなら、状況が分からないですが」
「お前は、この学校に来た。今日からな」
呆れたように、溜息をつきながら女性は頭をふりつつ呟く。
この女性が言うなら、そうなのだろう。そう、有無を言わせずに納得させるような凄みが、彼女にはあった。
「制服なら本棚の脇にあります。詳しい事なら、ルームメイトが来ますから、その人に聞きなさい。質問は?」
具体的に何をする学校なのか、なぜ自分がいるのか、そもそも自分は何なのか。
質問したい事はごまんとあったのだが、ベッドに腰かけた少年にとって、矢継ぎ早に言いまくる彼女は、質問してはいけない相手にすら見える。
「ないんでしょ。ないのね。では、今日の午前10時に教室に行きなさい。では」
要件らしい要件すらなく、女性は春明の時よりもなお冷たい風を残して去ってゆく。
時計がないので、時間はよく分からない。おまけに教室がどこにあるのかも分からないが、ひとまず準備はしようと、少年は立ち上がり、制服に手を伸ばした。
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