しがない理事長の1日

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――AM6:00――  学園都市エデンの理事長・ウルガリア・ヴァイストール。通称・ウルの自宅の、寝室の扉をノックする音が響き、メガネをかけた美女と称せる女性が入ってくる。  彼女の名前はアンナ・レイフォンス。ウルガリア・ヴァイストールを支える有能な美人秘書である。  彼女は、肩甲骨辺りまである藍色の長い髪を、後ろでまとめ上げ、髪留めで止めている。誠実そうな切れ長の目に、引き結んだ唇。そして、均整の取れた整った顔立ちと、艶のある白い肌は見る人を惹きつける妖しさを放っている。 「理事長、起床のお時間です」  淡々と義務をこなすように言い、彼女は寝室のカーテンを開け放って朝日を部屋の中に取り込む。  その朝日を受けたウルは、特製の抱き枕に呻きながら顔をうずめた。 「…………」  それを冷めた様子で眺めるアンナは、タイトスカートのスリット部分から手を滑り込ませ、左足の太股に着けているホルダーからオートマチックの銃を抜き、うずめている顔めがけて3度、引き金を引いた。 「うおおおお!?」  3度の銃声に驚き、ウルは抱き枕を抱えたままベッドから跳ね起きる。  アンナが放った弾丸は、ウルが顔をうずめていた箇所スレスレの所を撃ち抜いていた。  そして、抱き枕の状態に気づいたウルは、顔を青ざめさせてアンナを睨みつけた。 「テメェ、アンナ、コノヤロウ!! 俺がせっかく作った、ユノアちゃんの抱き枕がボロボロじゃねぇか!! 覚悟しやがれ!!」  そう言い、涙を流しながら飛びかかってくるウルを、アンナは冷たい目で射抜き、焦ることなくウルの顎に銃口を突きつけ、忠告するように口を開く。 「四肢を砕かれ、引きずられて理事長室に向かう事がご所望ならば、お相手を致します」  引き金にかけた指に力が込められ、本気の殺意を宿した瞳で睨まれた瞬間、ウルの気概は一気に削り取られ土下座する勢いで謝った。  学園都市エデンの理事長の1日は、このようなのどかな朝から始まる。
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