俺とユノアの初めての休日

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「…………」  後ろを振り返ると、ユノアは一軒の店の中を食い入るように見つめていた。 「ユノアー、なに見てんだ?」 「…………」  こうも反応がないと、泣きたくなってくるな……。  まぁそれなら、こっちから見に行けばいいだけの話なんだけどな。 「さぁて、何を見てるんですかね……」  ユノアが見てる物、それは、可愛らしい子犬のぬいぐるみだった。 「欲しいのか?」  俺がそう聞くと、ユノアはぬいぐるみを見つめたまま、小さく頷いた。  値段は……なんだ? 意外と安いな。 「よし、なら中に入るぞ」 「……ん……」  なんでだろうな? ところどころ自動ドアなのに、なんで店とかは、手動なんだろうか?  どっちかに統一してもらいたいな。  店内に入ると、鈴の可愛らしい、明るい音が店内に響いた。  店内はどこか懐かしい雰囲気がして、妙に落ち着く。 「いらっしゃい」  店内を見回している俺とユノアにどこからか声がかけられた。  声が発せられた方へ目を向けると、そこには、肩ぐらいまである黒髪に、メガネをかけた、とても綺麗な女性がいた。  女性の知的そうな雰囲気は、店の雰囲気にとても馴染んでいる。 「何かお探しのものでも?」  女性は今まで何かを読んでいたのか、パタンと何かを閉じると、スゥッと立ち上がった。  立ち姿を見て、改めて思った。本当に綺麗な人だな、と。 「どうしました?」  いつの間にか女性は、俺とユノアの目の前に立って、笑顔を俺たちに向けていた。 「あー、その、あのぬいぐるみが……」  女性は、俺が指差した方向を見ると、ぬいぐるみの方へと歩いていき、ぬいぐるみを持って、戻ってきた。 「妹さんへのプレゼントですか?」  支払いを済ませ、ぬいぐるみを受け取ると、女性は不意にそう聞いてきた。 「えーっと、まぁそんなも――」 「……妹じゃ、ない……」  ユノアは俺の言葉を遮り、女性の目を見て言う。 「妹じゃないの? それじゃあ、小さな恋人さんかしら?」  女性はユノアと目線を同じ高さに合わせ、からかうように聞く。 「ああ、違いま――」 「……そう……」  ユノアの返事に、俺と女性はキョトンとした。 「そ、そっか。そうなんだね」  俺より先に正気に戻った女性は、まだ動揺しているらしく、生返事しかできなかった。
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