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真相。
「何で、ここにいんのよ。」と真梨子は正気を取り戻して言った。 賢一は、その言葉の意味が全く分からず立ち竦んでいた。
「置き手紙見たでしょ?」真梨子は言う。が、
「置き手紙?何のこと?」と問い返す。
「出ていった日に、机の上に置いてった手紙よ!」
「そんなの見てないよ!なかったよ!!」と賢一は言う、
が、
実際はあった。が、彼が気付かなかったのも無理ない。3分後にペットである羊(リッキーソンジュニア)に食べられていたのだから。
「まあ、そんなことはもうどうでもいいわ。さあ、帰ってくれる?」と彼女は言う。
「え、え!お、俺はここに総勢8000人と言われる悪の組織に拐われたお前を助けるために独りで乗り込んできたんだぞ!そんな言葉がどうして出るんだ…の」と、賢一は言い返した、が、実に素晴らしい誇大妄想。
「そういうところとかムカつくの。手紙にも浮気相手と同棲しますって書いたんだから。」
「え、誘拐されたんじゃないの?」
「違うわよ、あんたは振られたの。」
「え………。」
「じゃ、今から買い物の約束してるから、ばいばい。」
こうして彼女の背中はどんどん小さくなっていった。
12月25日の今宵、この特別な夜に賢一は、独り寂しく放浪しながら回想をしていた。煙草は5箱目に突入していた。目の前には交差点。賢一は、煙草に火を点けるのに気をとられ信号が赤であるのに気が付かなかった。その刹那、120km/hで暴走するレガシィと接触事故を起こした。
数秒後、賢一は何事も無かったかのように、「ふぅ、風が冷たいや。」とだけ言って新宿の夜道に消えていった。
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