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俺がぼーっと歩いていると、前だけを見ていた彼女がいきなりこちらを向いてきた。
「でも大変ですね。覚えることいっぱいあるし、店長細かいし」
彼女は眉間にしわを寄せ、困ったような顔をしながらふっくらした唇をとがらせている。
「まぁいきなりは無理だよね。なんでも教えてあげるからさ」
「ほんとですか? じゃあ遠慮なく。斉藤さん彼女いますか」
なぜだか彼女は急に元気になり俺の方に少し寄ってきたが、予想もしなかった質問に俺はしばらく頭を整理する必要があった。
「……いや、なんでもって言ったけど意味が」
俺は笑ってごまかそうとしたけど、彼女は真剣な顔をしている。
「いないよ」
少し言いづらかったが、彼女の真剣な眼差しに負けた。
「いないんですか?」
彼女は大きな目をさらに開き輝かせながら寄ってきた。
自転車のペダルが足に当たって痛い。
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