西村絵里

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しばらく無言で歩き、人通りの少ない道に入った頃。暗くなった雰囲気を変えるように彼女が明るい調子で、もう一つ質問がありますと話しかけてきた。 「なに?」 「斉藤さんって前からあの店で働いてますよね。お客さんの顔とか覚えてるんですか?」 また自転車ごと寄ってきて俺の足にペダルが当たる。 今回はすねに当たり痛かったため、俺から少し距離を取ったが、彼女は俺の顔をのぞき込んだままだ。 「常連さんなら覚えてるかもな~。でも俺、人の顔を覚えるの苦手だからすぐ忘れるかも。 恐い人なら覚えれるんだけどね」 俺は笑い話のつもりで話したが、なぜか彼女は目だけ下を向き、少し俺から離れた。 「……そうですか。 そうですよね。 人たくさん来ますもんね。あたしも常連さんの顔ぐらい覚えなくっちゃ」 気づくとまた笑顔になっていた彼女と目が合ったので、常連さんの特徴やおもしろかったエピソードについて話した。
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