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「やっぱりきてました?」
私はワインを片手に、背中が凍る。彼の声だった。
「月沢くんも?」
プロムの彼のことをその時に初めてしっかりと見た。自分勝手な空気清浄器は、あの瞬間に捨てたつもりだったから。
「僕のこと、覚えてますか?」
彼はお酒の力からか、少し蒸気している頬を自らの視線を誰かの瞳に反射させることで冷ましていた。
「覚えてるわ。あなたこそ覚えてるかしら?」
私は少し皺の寄ったドレスの裾を直すフリをして、彼の視線から逃げる。
「ええ、もちろん。」
フラットな大地に、光が差し込む。
「なにを飲んでいるの?」
私が左手のワイングラスを弄びながら口走る。光は私のネックレスを赤く染め、彼の顔を青ざめさせているように見える。
「僕はシャンパンを。」
彼は気のせいか少し覚めた頬の隣で、グラスを揺らす。
「なぜかしこまるの?」
私はネックレスが1番赤く輝く場所をグラスと光りに相談しながら問い掛けた。
「え?」
彼は信号が赤だから止まるのは何故?という当たり前のことを問い掛けられたように目を丸くした。熱い人間らしい瞳が似つかわしくない彼の顔に、少しだけ感情を点す。
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