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「ね、まだ雨、少しは降ってるのかしら?」
彼は少し間をおいて、窓の外を見つめる。
「まだ…、いや大分。」
私はキャンドルと、柔らかいフロアのライトに彼の笑顔を重ね合わせた。なんて幼い顔をしているのだろう。まるで野原を駆け回り1番高い木に上ることで、全ての世界の覇者になったような気でいる少年のように見えた。
「ねぇ雨って素敵ね。」
私は幼い頃から感じていた素直な言葉を口にする。雨は、日常を特別にする。その後に何故か少し恥じらいを感じる。なんだか自分の手のうちをさらけ出しているような気がしたからだ。
「僕も、そう思う。雨は、静かだから好きだ。」
初めて彼の考えを聞いた気がした。好きだ、という言葉の尊さを知ったのもその時。パッハルベルのカノンが意気揚々に流れるフロアの中で、私達は二人目を閉じ雨を感じようとした。
「あなたは感じた?」
私は、目をゆっくり開けたが彼はまだ目をしっかりと閉じ雨の中にいた。自分の冷えた視線で熱い瞳を結晶にし、自分の中で雨を降らせる術を知っている。そこでゆっくり大地が潤う音を知った。
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