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電話が切れてからそれ程時間もたたないうちに彼はやってきた。スーツに少し水滴をつけて私の元へ歩きだす。なんだか不思議な空間だった。周りの音は聞こえない。彼の息遣いさえ聞こえる気がした。
「わざわざありがとう。」
私は彼に向き直りそういうと、彼は笑った。さも面白くなさそうに。
「いえ、どうぞ。ちょうど近くにいたからよかった。」
私はネックレスを受け取ると少し満足した。彼と私しか知らない時間を過ごしている。彼の瞳はまだ燃えていた。
「優しいのね。」
彼は冷たい視線を私に向け、そんなことはないと言った。そして私に背を向ける。
「気をつけてくださいね。僕は次の予定があるから行くけど。」
その言葉を裏付けるように、携帯には着信か受信かわからないがライトが点滅している。
「ええ、さよなら。」
「さよなら。」
彼は一瞬とまどったようにさよなら、と言った。
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