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「こんにちは。」 私は同じように言葉に迷った。彼の瞳の中の熱さに気付いてしまったからだ。「こんにちは。」の言葉にありきたりな響きなど一つも感じなかった。むしろ異国の言葉のような嬉しい新鮮を感じたのだ。私が彼に似合う言葉を探し始めたときにはもう返答のモラトリアムなどなかった。 「こんにちは。」 仕方なく私はかろうじてありきたりな言葉を投げかけた。彼はたいした興味もなさそうに微笑んだ。なんと彼に似合わない言葉だろうと自分の語彙の無さを悔やんだ。 「僕あなたのこと知ってます。」 彼はギラギラした瞳にふわっと光を湛えて私の瞳を掴んだ。 「私のことを?私もあなたのこと知っている。」 不思議な空間だった。大きな地平線しか見えない草原の中に二人取り残された気持ちになった。どこか胸が落ち着かない。だって私は彼のことをずっと前から知っている。
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