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私が彼を知ったのは、彼が煙草に火を点けているときだ。周りにいるたくさんの人間が騒々しく音を消費するなかで彼は一人違う世界にいた。一人で過ごすことにただ恐怖を感じていた私は友達との会話を忘れ、彼に釘づけになる。
フィルターに口をつけ、ゆっくりと息を吸い込み、思い出したように煙を吐き、それを2回繰り返すとまたゆっくりと灰を落とす。普通の行為なのに、彼がそれをするとなんだか特別な行為に見えた。儀式のような緊張感と、子供の火遊びのような危うさ。やはりそれも彼の幼い顔には到底似合わないのだが、隙間を縫うような彼の煙が何故か全てのバランスを補った。言葉で表すと稚拙になるが、彼は森の木漏れ日を当たり前に受けることの出来る特別な人間なのだと思った。そのくらい自由で捕えようのない存在感があった。
それから私は彼がいると自然と彼を追いかける目を持った。話し掛けるともなく凝視する訳でもなく、空気が澄むだけの話だった。だから私はきっと彼が私を知るよりずっと前から彼を知っていた。
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