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そう、初めて会話を交わした草原の次に彼と会話を交わしたのは卒業式。その後草原で彼から聞いた話は、私に一筋の悲しみと一粒の希望をくれた。
「僕、好きな人がいて」
私の脳みそがそれ以上の言葉を拒む。
「その人に見合う人間になりたいです。」
言葉は残酷だ。音を成して耳にねじこまれる。それが甘美なものでも冷酷なものでも。私はただ雪が落ちて冷えていくのを拒めない大地のように表面はなにもない顔をして頷いた。
「恋人は欲しいですけど。」
彼の笑顔が一瞬で凍った大地を溶かす。
しかしそのときは驚いた。この気持ちは恋なんていう陳腐なものではない。もっと美しいものだと思っていたから。ただ彼の一言で私の大地は花を咲かせれば、凍ることさえ厭わないのだ。二度と花が咲かないリスクを知りながら。でも私はやはり何事もなかったように大地を整える。
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