思い出

8/19
前へ
/27ページ
次へ
帰国して、単さんはすぐに俺に連絡をくれた。 単さんに呼ばれて行った先は寮だった。 「寮に住んでたんですね」 と言ったら、単さんは表情を曇らせた。 「俺はあの家の実の子じゃないから居づらい」 「すみません」 「いいんだ。それより上がってくれ」 ワンルームの単さんの部屋は、全く生活感が無いように思えた。 「龍司に礼を言わなければと思って…」 「そんな、俺は何も」 「背中を押してくれた。ありがとう、龍司」 「単さん…」 「…今日だけは…泣いてもいいか…?」 単さんは、床に体操座りをして、顔を伏せた。 「当たり前です。…俺はここにいますから」 単さんの肩は震えていた。 俺はしばらく、何も言わずに隣に座っていた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

240人が本棚に入れています
本棚に追加