思い出

5/19
前へ
/27ページ
次へ
単さんは高校卒業後、医学部へ進学した。 大学進学後も単さんはバイト先に来てくれたりした。 一緒に遊びに行く事もあった。 友達として、とても大事にしてくれてるのだと感じていた。 そして、ある日、単さんが言ったんだ。 「子どもが生まれた。男の子だってさ」 単さんは結婚はまだしていないようだったから、訊いてしまった。 「結婚は、しないんですか?」 単さんは、 「一人前の医者になったらな」 そう言って笑った。 単さん、いよいよ手の届かない人になってしまうのか…。 胸は苦しいけど、単さんが幸せならいい…。 俺がそんな複雑な気持ちを抱えてると知ってか知らずか、単さんは楽しそうに 「名前、何がいいと思う?」 そう訊いてきた。 「男の子…ですよね。うーん…」 「実はさ、候補があるんだよ。イツキとリョウ」 「どっちもいいと思いますけど…俺はイツキの方が好きですね」 「そうか。じゃあ、イツキにするかな」 単さんは微笑んだ。 …単さん、それはずるいです。 そんな大事な事を相談されたら俺、期待してしまう。 「龍司、俺の事、まだ好きか」 心の中を見透かされたみたいだった。 「…はい」 「…すまない…俺はお前の気持ちに応える事は…」 「わかってます。…俺は単さんの近くにいられるだけで幸せですから…寂しくなったらいつでも呼んで下さい」 「龍司…バカだな。俺なんか…」 「…いいんです。単さん、幸せになって下さい」 「ありがとう、龍司」 単さんの笑顔はとても綺麗で…切なくなった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

240人が本棚に入れています
本棚に追加