上司

3/3
前へ
/34ページ
次へ
食堂で席を取り、自分はAランチを食べた。上司は愛妻弁当だ。弁当箱を開けた彼が一瞬だけ変な顔をしたが、その時は気にもならなかった。 それを口にしながら、上司が口に出したのは彼が入社した頃の話。 どれだけ優秀だったかを語る気だろうか。そんな話なら今すぐ耳栓をしたい。 だが、実際は… 「お前よりも、もっと怒られてたんだぞ」 それは驚いてしまうくらいの失敗談の数々で、苛めに近いくらい叱られたと話す。それが自分ならすぐにでも辞めてしまいそうだ。 上司は語る。 「たくさん叱られた分、叱る側に回った時に相手の気持ちが良く解るんだ。でも甘やかしたらダメになる。………難しいんだよな」 と、弁当箱のミニトマトを爪楊枝で刺して、こっちの皿に乗せて言った。 「だからお前も、いつか解るさ。辞めずに頑張れよ」 「………はい」 きっと良い返事を出来たと思う。そして、皿に乗せられたミニトマトは上司の弁当箱に返した。 コレ嫌いなんだよなぁ…と小さく呟いた声には聞こえない振りをして…。 .
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加