晃の弟

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そして、会社が終わり、同僚の誘いを断って、千鶴は駅に向った。 顔は正直、晃には似てないと言っていた。 どんな顔かもまったくわからない。 それでも、頼まれた以上は、きちんとしないと。 千鶴は駅へ急いだ。 その時、電話が鳴った。 【着信 翼くん】 千鶴は急いで電話に出た。 「もしもし。」 「あの、えっと、俺晃の弟の翼です。」 「あ、はい。私千鶴です。」 「えっと、その着きました。今駅の出口、西口と東口とあるんですけど、どっちに出ればいいでしょうか?」 「あ、西口に出てください。私も今すぐつきますから。」 そう言うと、電話を切った。 西口のエスカレーターを、駆け足で登った。 人ごみの中で、一際身長の高い男の子を見つけた。 「あ、あの、翼くん?」 千鶴がそう言うと、翼はニコッと笑った。 「はい、翼です。」 晃よりも、身長も高いし、がっちりしていて、しかもイケメンだ。 それが最初の印象だった。 しかし、その表情はまだあどけなく、子供だった。 「あの、1ヶ月間お世話になります。突然の事で大変申し訳ありませんが、宜しくお願いします。」 晃よりも礼儀正しい。 それが、千鶴が翼に抱いた最初の印象すべてだった。 「いえいえ、こちらこそよろしくね。受験勉強の邪魔にならないようにするから、がんばってね。」 「あ、ありがとうございます。」 「あ、おなかすいたでしょう?今日は、このまま食べて帰ろうか。」 千鶴は、子供を相手にするような口調で、翼に接した。 「もちろん、お姉さんのおごりでね。」 そう言うと、翼に微笑んだ。 「ありがとうございます。」 二人は、ファミレスで食事をした。 千鶴は、思ったよりいい子でよかったと、ホッとしていた。
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