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男は咄嗟に辺りを見渡したが、道行く人は誰一人居なかった。
気のせいかとも思ったが、気味が悪いので信号が変わったら直ぐに飛ばそうと決め、ただひたすら青になるのを待つ。
───その1km程離れたところにあるビルの屋上に、先程の殺気を放った張本人がいた。……少年だった。
「あいつか…暴力団の幹部を殺して金を盗み、窃盗と殺人を繰り返してる男は」
その少年は傍らにあったアタッシュケースを開き、中に入っていたバラバラの組み立て式のライフルを見つめ、慣れた手付きで組み立てる。
「気付かれたかな…ま、いっか。どっち道、あっちからは見えないんだから」
まるでこちらからは見えているような口振りだが、少年の側には双眼鏡らしきものは何一つない。もちろん肉眼では見えないはずだ。
・・・・・
…普通ならば。
少年が銃を構える。
──…信号が青に変わると同時に車がものすごいスピードで発進した。
数秒とかからず少年の弾丸が車のタイヤを撃ち抜いた。
急に足を失った車は綺麗にスピンし、ガードレールにぶつかってようやく止まり、突然の出来事に驚いたのか男が車から飛び出した。
逃げようとするが、足がもつれて惨めな姿をさらしている。
「バーカ…僕の眼から逃げようなんて無謀なんだよッ!」
口元を歪め、子供のように悪戯っぽい笑みを浮かべる少年。
そして言葉と同時に放った銃弾は、少年の笑みとは裏腹に冷酷に男のこめかみを貫いた。
男が動かなくなったのを確認すると、少年はまだ硝煙が立ち上る銃を抱えて携帯を手に取り、ある所へ電話をかけた。
「──もしもし、雷さん?…こちらルシファー、任務終了しました」
「…ご苦労様。アスタロトとラミアはまだ殺ってるらしいが、お前はもうかえっていいぞ」
「はい、解りました」
電話を切り、少年はため息をつく。
すると、雲の切れ間から月の光が溢れて少年を照らし、顔が識別できるようになった。
──…いたって普通の男の子だった。
何処にでも居そうな何の変哲もない普通のワイシャツのなかにボーダーのTシャツを着ている。他が普通なだけあって、銃の異常さが際立つ。
「ふぅ…今日で丁度50人か…」
そう呟き、ライフルを解体しはじめる。アタッシュケースをしめると、それを片手に少年─…如月飛鳥はその場から去っていった。
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